脱炭素社会とは?事例つきで簡単に分かりやすく解説します!
近年、「脱炭素」や「カーボンクレジット」という言葉を耳にすることが多くなりました。
しかし、よく耳にしても、具体的にどんな取り組みなのかわからないという方もいるでしょう。
本記事では、脱炭素やカーボンクレジットとはどういったものなのか、求められる対策について紹介します。
Contents
脱炭素とは何?分かりやすく解説
脱炭素とは、地球温暖化の原因となっている二酸化炭素等の温室効果ガスの排出を抑制する運動のことです。
特に、二酸化炭素の排出によって世界の平均気温は、1891年の統計開始以来、約0.95度の上昇がみられており、地球全体の二酸化炭素濃度は産業革命前より40%も増加しています。
このような、二酸化炭素をはじめ有害な炭素の排出を抑えることで、地球温暖化の進行を緩やかにし、地球の未来を守る運動が「脱炭素」ということです。
カーボンニュートラルとは何?
カーボンニュートラルとは、「カーボン=炭素」と「ニュートラル=中立・中間」を組み合わせた言葉で、温室効果ガスの排出を実質ゼロを目指すものです。
カーボンニュートラルが達成された社会を「脱炭素社会」ともいいます。日本では、「2050年カーボンニュートラル宣言」を掲げ、脱炭素社会の実現に向けて取り組みを進めているところです。
カーボンオフセットとカーボンニュートラルの違い
カーボンニュートラルに類似した言葉に、カーボンオフセットというのがありますが、カーボンオフセットとは、カーボンニュートラルの実現において欠点を補う概念です。
たとえば、二酸化炭素の排出量を削減するにあたって、森林保護活動を行ったり、再生可能エネルギーの開発を行ったり、その活動に投資をすることなどがカーボンオフセットの取り組みにあたります。
なぜ、カーボンニュートラルの達成が2050年に設定されているのか?
カーボンニュートラルの達成目標が2050年に設定されたのは、IPCCによる評価報告書によって「人類が安全に暮らしていくには気温上昇を1.5℃程度に抑えることが必要で、そのために2050年までにカーボンニュートラルを実現しなければならない」と発表されたためです。
事実上国際目標として認識されるようになったため、日本でもカーボンニュートラルの達成目標として2050年と設定されています。
カーボンニュートラルと経済成長
カーボンニュートラルを達成するにあたり、問題となるのが経済成長です。経済が成長をし続けると、排出ガスの総量が増え続けることになります。
最近の調査では、一定水準を越えて経済成長すると、温室効果ガスの排出量も減少すると報告されているものの、排出の抑制だけでは、カーボンニュートラルの達成は出来ません。
各国では、自国の経済を成長させつつ、カーボンニュートラルの達成に向けて施策を検討している最中です。
日本の脱炭素への取り組み
2030年に46%削減が目標
日本では、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目標として掲げています。
日本の温室効果ガス排出量は、2019年度時点で12億1,300万トンでした。
2013年の排出量は14億1,000万トンだったため、日本は2030年までに32%削減する必要があります。
そのために、省エネや電源の脱炭素かや非電力部門CO2排出原単位の低減などを行う戦略を立てられており、税制対策等も行われる予定です。
世界各国の脱炭素に向けた目標
アメリカ
アメリカでは、以下のような温室効果ガスの削減目標が掲げられています。
- 2030年までに2005年と比べ、二酸化炭素排出量を50~52%削減
- 2050年までに2005年と比べ、温室効果ガスを80%以上削減
また今後20~35年の間に、森林を約16万~20万k㎡拡大するとの展望も発表されました。
国策として、クリーンイノベーションを支援するため、クリーンエネルギー分野への持続的な投資も行われています。
カナダ
カナダでは、以下のような温室効果ガスの削減目標が掲げられています。
- 2030年までに2005年と比べ40~45%削減
- 2050年までに2005年と比べ80%削減
電力の脱炭素化として、再生エネルギーや原子力などによって燃焼を減らす取り組みを一層進める方針が掲げられています。
運輸部門の電化も進め、大規模な燃料転換を行うとも発表されました。
イギリス
イギリスでは、以下のような温室効果ガスの削減目標が掲げられています。
- 2030年までに1990年と比べ68%削減
- 2050年までに1990年と比べ80%削減
産業業務部門においては、2030年までに20%以上のエネルギー効率を改善するために、持続可能なバイオマスなど低炭素燃料への転換が行われる予定です。
さらに森林面積率を9.8%から11%に増加させるため、森林面積を現在より18万ha増やすとも目標を掲げています。
ドイツ
ドイツでは、以下のような温室効果ガスの削減目標が掲げられています。
- 2030年までに1990年比と比べ55%削減
- 2050年までに1990年と比べ80~95%削減
効率的にエネルギーを利用して、大幅に削減されたエネルギーに関しては、再生可能エネルギーでまかなう方針です。
また交通システムを脱炭素化するために、電気自動車、燃料電池自動車、航空分野でのバイオ燃料利用、移動の自動化が行われる予定です。
さらに税金や補助金制度を見直し、投資インセンティブの付与などを行うと発表しました。
フランス
フランスでは、以下のような温室効果ガスの削減目標が掲げられています。
- 2030年までに1990年と比べ40%削減
- 2050年までに1990年と比べ75%削減
フランスではすべての建物を省エネ建築規格に適合できるように、大規模な改修を実施する展望を掲げています。
また製品単位のエネルギー・素材需要を抑制するため、リサイクルや再利用を促してエネルギー代替やCCS技術の開発と普及に努める方針です。
炭素価格の段階的引き上げ、カーボンフットプリント、イノベーション、都市開発、資金調達なども推し進められるでしょう。
CO2排出量の削減における計算方法
CO2排出量の削減における計算は、下記の計算式で求められます。
エネルギー起源CO2の排出量=CO2排出係数×エネルギー消費量
エネルギー消費量とは、熱や燃料、電力等を消費した値のことで、CO2排出係数は、ある一定のエネルギーを使用する際に排出したCO2量を測る指標のことです。
エネルギー消費量とCO2排出係数の値を下げれば下げるほど、カーボンニュートラルの達成に近づけられます。
カーボンプライシングと炭素税・排出量取引制度
炭素税とは
炭素税とは、企業などに対してCO2の排出量に応じて課せられる税金のことです。CO2排出量は燃料の種類によって決められています。
例えば、ガソリンの場合であれば、1リットル当たり2.3kg、石炭であれば1kgあたり約2.4kgのCO2排出量になります。
徴収した税金は、温暖化対策のための投資などに利用される予定です。
排出量取引制度とは
排出量取引制度とは、企業などで排出枠(排出できる温室効果ガスの上限)が設定され、上限を超えた分はお金を払って必要な排出量を買い取る制度です。
企業が排出枠を買い取る方法には、以下のような種類があります。
- オークションによる政府からの購入
- 政府からの無償割り当て
- 他の事業者からの購入
企業はなるべく安価な方法を採用するので、社会全体として効率的な温室効果ガス削減につながると考えられています。
脱炭素実現のためCO2を削減する技術
再生可能エネルギー
脱炭素社会を実現するには、再生可能エネルギーの発展が不可欠です。再生可能エネルギーとは、太陽光や風力、地熱等を使って発電する技術のことで、音質効果ガスを排出しません。
また、資源に乏しい国ではエネルギー供給の多くを輸入した化石燃料に依存してしまいがちですが、再生可能エネルギーの原料は全て国内にあります。
エネルギーの供給が止まることがないため、エネルギー安全保障に寄与しエネルギー自給率の向上にも貢献するでしょう。
創エネルギー
創エネルギーとは、企業や一般家庭が自らエネルギーを作り出すことを指します。
太陽光発電や、水素と酸素の電気化学反応によりエネルギーを作り出す燃料電池などが主流です。
創エネルギーで作り出したエネルギーを、リチウムイオン電池などに蓄える蓄エネと組み合わせた利用が進められています。
ネガティブエミッション
ネガティブエミッションとは、温室効果ガスの多くを占めるCO2を大気中から除去・減少させる技術です。
大量に排出されるCO2を削減する手段としては、以下のようなものがあります。
- CCS(CO2の回収と貯留)
- CCU(CO2の回収と利用
CCSやCCUの実現には、CO2を大気から分離して貯蔵する技術が必要となります。
特にBECCSはパリ協定の目標達成に大きく貢献できると期待されており、各国で研究が進んでいます。
脱炭素社会実現に向けて求められる対策
製造業のエネルギー消費効率の改善
脱炭素社会を実現するには、製造業のエネルギー消費効率を改善することが重要です。特に、鉄鋼業では、「高炉法」において大量のCO2が排出されています。
実際、全産業における製造業のCO2排出量の割合は25%と高く、脱炭素の実現には、製造業の対策が重要と言っても過言ではありません。
化学工業の大手の一部では、「SBTイニシアチブ」というCO2排出量削減目標を設定する国際的な枠組みに参加し、CO2の削減に取り組んでいます。
競争力の強化、継続的な改善を行う仕組みの導入
脱炭素社会の実現に向けて、CO2排出量を削減する企業等に向け、インセンティブや企業間の競争力を強化するシステムの導入が求められています。
例えば、地球温暖化対策税や、補助金制度等です。企業が継続的にCO2排出量を軽減できる動きを導入できる仕組みを作ることで、脱炭素社会の実現に近づけられます。
最先端技術の研究開発と世界最速の実用化、普及拡大
CO2排気量を大きく削減する製品を適正に評価し、普及させていく仕組みも必要です。
たとえば低燃費自動車、省エネ型家電、太陽光発電、ヒートポンプなどは国際戦略製品として、国内市場を育てるとともに海外展開を支援することが欠かせません。
化石エネルギーからの脱却や、天然ガスや水素エネルギーの活用推進の施策も必要となるでしょう。
脱炭素へ向けた国内企業の取り組み事例
RICOH、ASKULやGAFAも参画「RE100」
脱酸素社会の実現につながる国際的な取り組みに、「REI100」があります。
「REI100」は、事業活動で使用する電力を、再生可能エネルギーで100%調達することを目標とする国際的な枠組みです。
「RE100」にはGoogleやApple、Facebook、Amazon、Microsoftといった世界的な大企業が参画しており、日本企業ではRICOH、ASKUL、富士通、ソニー、パナソニックなど50社が加盟しています。
鈴廣かまぼこ株式会社
食品会社の鈴廣かまぼこ株式会社では、以下のような技術を用いて温室効果ガス削減を進めています。
- 太陽光発電システム
- 太陽熱利用給湯システム
- 地中熱を利用した換気システム など
壁を断熱構造にして、自然光ダクトを作って外光を利用する取り組みも行われており、同じ規模の建物と比べて50%以上のエネルギー削減を実現しています。
株式会社アイ・グリッド・ソリューションズ
株式会社アイ・グリッド・ソリューションズでは、CO2排出量実質ゼロの「スマ電CO2ゼロ」という電気を提供しています。
さらに「スマ電CO2ゼロ」を契約している事業所や店舗とともに脱炭素の輪を広げていく「CO2ゼロ アクション プロジェクト」を開始しました。
より多くの人・企業が脱炭素に取り組めるよう、さまざまなソリューションが提供されています。
【主なシステム・プラットフォーム】
- オンサイトソーラー
- 蓄電池
- EV充電設備
- エネマネシステム
- 需要家ネットワーク など
再生可能エネ100%列車、東急から出発
世田谷線の運行は、2019年3月25日から、再生可能エネルギーのみを利用して行われています。
世田谷線の全長は約5キロメートルと短く、この取り組みで削減できるCO2排出量は、同社の鉄道事業全体の0.5%とされています。
それでもこの取り組みにより、再生可能エネルギーの普及に繋がる可能性は高く、鉄道業界では大きく注目されています。
ホンダ、40年に新車を全てEV・FCVにする
自動車メーカーのホンダは、ガソリンエンジンからEVへの転換を目指しており、
2021年4月に就任した三部敏宏社長は、就任会見で脱炭素化への高い意欲を示しました。
2040年までに、世界の新車販売を全て電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)にすると発表しています。
ホンダは今後6年の間に、約5兆円の研究開発費を投じて、先進国におけるEVとFCVの新車販売比率を30年に40%、35年に80%と段階的に高めていく計画を打ち出しています。
脱炭素へ向けた政府の取り組み
総発電量のうち3~4割りを原子力でまかなう
2050年の脱炭素社会実現に向け、CO2排出量の多い石炭火力発電を廃止し、原子力発電を代替とする案があります。
しかし、国内では地震や津波などによる放射線被害も懸念されています。
現在は原子炉を安全最優先で再稼働させる一方で、次世代の小型モジュール炉(SMR)を早期に実用化する方針を示しています。
社内炭素税の導入を検討
民間では脱炭素化への取り組みを、投資判断に使う動きも加速化しています。
たとえば企業が社内で設定した炭素価格をベースに、各事業部門が工場に設置する機器の
選定などについて投資判断を行うと、炭素価格が費用として計上されるので、本体価格が安くてもCO2排出量が多い機器よりも、排出量が低い機器の方がトータルで安いと判断されます。
国内ではすでに帝人、日立製作所、アステラス製薬、宇部興産などがICPを導入しています。
脱炭素社会に向ける生活の中の取り組み
地球に優しい電気に切り替えるだけでも脱炭素化に貢献
個人や家庭でできる脱炭素社会への貢献としては、いくつかの手段が挙げられます。
その中でも自宅の電力を再生可能エネルギーに切り替えたり、創エネルギーで補ったりすることには大きな意味があります。
電気は日々使用するものなので、再生可能エネルギーに切り替えることで、個人でも脱炭素化に貢献できるでしょう。
また電気機器を省エネ機器に切り替えるのも有効です。自家用車をEV車に買い替えることも、長期的に見れば脱炭素化に繋がるでしょう。
二酸化炭素と共存する未来へ向けて
脱炭素化は、地球環境を守るために欠かせません。脱炭素社会の実現に向けて、世界各国それぞれが目標を掲げて取り組んでいます。
日本でも2050年のカーボンニュートラルに向けて、さまざまな取り組みが行われています。
一方でCO2は、生物が生きていく上で欠かすことができません。CO2は地球を適温に保つ温室効果に優れ、植物の成長に欠かせない光合成の素でもあります。
脱炭素社会の実現に向けて環境負荷を減らしていくことを最優先に、二酸化炭素と共存しながら持続可能な未来を創っていく必要があるでしょう。
まとめ
脱炭素社会に向けた取り組みは、今後国内だけでなく世界的にも目標が掲げられ、対策が取られていくはずです。
しかし、日本は他の先進国と比べると、脱炭素社会に向けた取り組みに遅れを取っている状況でもあります。
将来の世代も安心して暮らすことができる経済社会を作る為、1人1人があらゆる環境問題に興味をもち、目を向けていくことが大切です。